このブログ、『Some Other Place』では、私の書いた小説やエッセイなどを、気のおもむくままに掲載していくつもりです。
小説が主になる予定ですので、訪れてくださった方が読みやすいように、ブログの日付は、古い順から、上から下へと閲覧できるようにしています。
小説とエッセイを交互に書いたりしますから、小説だけを最初から続けて読みたい方、またはエッセイだけを見たい方は、それぞれのカテゴリーから入り、ご覧になってください。
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
|
ここは、わたし『みづき』の執筆した、オリジナル小説を掲載しているブログです。
| |
皆様、はじめまして。ブログ主の『みづき』と申します。
このブログ、『Some Other Place』では、私の書いた小説やエッセイなどを、気のおもむくままに掲載していくつもりです。 小説が主になる予定ですので、訪れてくださった方が読みやすいように、ブログの日付は、古い順から、上から下へと閲覧できるようにしています。 小説とエッセイを交互に書いたりしますから、小説だけを最初から続けて読みたい方、またはエッセイだけを見たい方は、それぞれのカテゴリーから入り、ご覧になってください。 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。 「夕方のにおいがする」 私は鼻をくんとした。 「奈美ちゃんは、おもしろいことを言うな」 ヒロ君が、ふっと私を笑う。 「ほんとだよ。夕暮れどきになるとね、ほこりと土が湿ったような、独特なにおいがしてくるの」 小学校のクラス会のあと、私とヒロ君は、公園の中を並んで歩いていた。 私は、遠慮がちに、ヒロ君に聞いた。 「あのさ。皆と二次会に行かなくて、よかったの?」 ヒロ君は、気がなさそうに、ああと答えた。 「あいつらとつるんだってさ。結局、いつも同じ話ばっかりだし」 今度は、ヒロ君が返してきた。 「奈美ちゃんこそ、行くべきだったよ。君なんて、二十五年振りに、初めて、あのクラス会に出たんじゃないか」 私は、ひとりごとのように、ぼそっとつぶやいた。 「私、なんで今日、参加したんだろ」 盆の里帰りの初日に、私は、同級生だった川島さんに、家の近所のコンビニで、偶然会った。そのとき彼女から、今日のクラス会に誘われたのだ。 小学校のクラスメートとは、ほとんど疎遠だったから、彼女に声をかけられたからといって、別に顔を出す必要はなかったように思える。 ヒロ君が、足元の小石を蹴った。 「いいじゃん。奈美ちゃんの顔見て、皆、懐かしいって喜んでたし」 彼は、私をちらっと横目で見た。 「それに俺も、君とケンカ別れしたままで、ずっと気になってたしさ」 私はすぐに反論した。 「ケンカなんてしてないじゃない、私たち」 ヒロ君は、私を非難するように口をとがらせた。 「じゃあさ。なんで、中学にあがったら、奈美ちゃんは、突然、俺を無視しはじめたんだよ」 彼の言うことには、心当たりがあった。 私とヒロ君は、小二の頃から仲良しだった。 通っていたそろばん塾が同じで、珠算の級が少し上だった私が、ヒロ君にそろばんを教えてあげたのがきっかけで友達になり、それ以来、塾の日以外も、よく二人で遊んでいた。 ヒロ君は、メロンパンとソース焼きそばが大好きで、道路でちょっと転んだだけで泣いてしまうような、少し弱虫な男の子だった。 それでも、家に帰りたくないと時々ごねる私に、外が暗くなるまで、公園のブランコに一緒に乗ってつきあってくれる、優しいところがある子だった。 中学一年のころ、ヒロ君に彼女ができた。私はなぜか、ヒロ君を見るといらつき、彼を避けるようになった。 しばらくして、私はどうやら、ヒロ君のことが好きらしいということに気がついた。だけど私は、ヒロ君と関わりあうのは、もうやめようと決めた。なんか、面倒くさくなってしまったのだ。 ヒロ君とのつきあいは、それっきりだ。 日が暮れかけた公園では、子供たちが、ぽつぽつと家に帰りはじめていた。 小指にかさっと触れた、赤いつつじの小枝を、私はポキッと折った。 「ヒロ君。子供、いるの?」 「ああ。二人ね」 「いくつなの?」 「小六と中二。二人とも女の子だ」 私は目を丸くした。 「そんなに大きい子がいるの?」 ヒロ君が呆れぎみに言った。 「俺、もう三十七歳のおじさんだぞ。かなり普通だと思うよ」 そうか。私たちは、もう三十七なのだ。 幼なじみのヒロ君と一緒にいたら、二人ともそんな年齢になっているのを、私はすっかり忘れていた。 「奈美ちゃんのほうは?結婚してるんでしょ」 私は、なんとなく答えづらかった。 「ううん……。してない。ずっと東京で、普通のOLやってる」 歯切れの悪い私に、ヒロ君はとっさに、人懐っこい笑顔を私に向けた。 「俺もだ。ずっと地元で、普通のサラリーマンやってるよ」 この人は、相変わらず、優しい人だなと思った。 「そんなこと言ってもさ。ヒロ君は、仕事も家庭も、順風なんでしょ」 私がそんな風にからかうと、ヒロ君は、しばらく間を置き、私の顔を見ずに、「うん……。そうだね」と言った。 私は、それ以上、ヒロ君になにも聞かなかった。 公園のグランドも終わりにさしかかったころ、見覚えのある黄色い看板が目に入ってきた。 「ねえ、ヒロ君。あれ、フタバの看板だよね。ちょっと、寄ってかない?」 フタバは、私たちが、よく塾の帰りに、寄り道をしていた駄菓子屋だ。 ヒロ君が、嬉しそうに、「いいねえ」と言った。 当時、百円玉を持ってあの店に行くのが、近所の子供たちのとっておきの楽しみだった。 ヒロ君の母親が、たまに、私たち二人に、余分の百円をくれるのが、とても嬉しかった覚えがある。 「ヒロ君のお母さん、元気?」 「お袋は死んだよ。三年前にね」 私はすぐに言葉が出なかった。 「わかったときには、すべて遅かったんだ。それから、たった二か月後だったから」 ヒロ君は、あっさりした口調で、私に説明した。 「そう……。ヒロ君のお母さんのホットケーキ……、すごくおいしかったよね」 私はなにを言っているのかと思った。なぐさめの言葉を考えるより、彼のお母さんが焼いてくれた、あのふわふわで柔らかいホットケーキを思い出している。 「ああ。俺のお袋よりうまいホットケーキを焼く人は、そうそういないからね」 ヒロ君は、微笑みながら、下を向いて歩いていた。 変わったことといえば、店の番を時々していた、フタバのおばちゃんの姪っ子が、今は店の経営をしていることぐらいだ。 「おっ。インベーダーゲーム。まだ、置いてたんだ。よくやったな、これ」 ヒロ君は、古い機械に硬貨をかしゃんと落とすと、ピコピコ音をさせて、ゲームをはじめた。 私は、狭い店内に所狭しと並んでいる、お菓子やおもちゃを、しばらく、ぶらぶらと見ていた。 ふと、レジの脇に、紙石鹸のパッケージが、沢山ぶらさがっているのが目についた。 私は、つい懐かしくなり、ヒロ君のほうを向いた。 「ねえ、見て。これ、覚えてる?」 ゲーム機の前に座ったまま、ヒロ君は、私になんの返事もしなかった。
道路の脇の、背の低い草むらで、虫が、りーんりんと鳴いていた。 「私さ。たぶん、ヒロ君を好きだったんだと思うよ」 私は唐突に口を開いた。 ヒロ君は少し驚いた顔をして、そのあと、私から視線をそらした。 駅の大きな白い看板が見えてきた。 「ヒロ君。もう、ここでいいよ」 私がヒロ君に告げると、彼は、笑って私にバイバイと手を振り、背を向けて帰っていった。 私が改札のあたりまできたとき、ヒロ君が突然、うしろから大きな声で、「奈美ちゃん」と、私の名を呼んだ。 私が振り返ると、ヒロ君が走って戻ってきた。 ヒロ君は息を切らして、ポケットからなにかを取り出した。 「これ、さっき、フタバで買ったんだけど。なんか、渡しそびれちゃってさ」 彼の手の平には、苺のぱっちんどめがのっていた。 「奈美ちゃんって、昔、こんな感じの、よくつけてたよね」 ヒロ君は、私にそれを手渡すと、「じゃあね」と言い残し、足早に去った。 プラットホームまで行ったあと、私は、ヒロ君がくれた、そのぱっちんどめを髪につけてみた。 コンクリートの柱の鏡に、自分の顔が映っていた。少し滑稽に見えて、可笑しかった。 苺のぱっちんどめに手をあて、私は目を伏せた。 戻ってくるような気がした。十二歳の少女だった、あのころの自分が。 不倫の恋のすえ、何もかもなくした、今の私とはちがう自分だ。 特急の列車が、ごおっと大きな音をたて、ホームに近づいてきた。 にほんブログ村 ↑ 私の作品を気に入っていただけたら、クリックをお願いいたします。 アメリカのハイウェイが好きだ。 とくに、田舎のインターステートがいい。 飾り気がなく、ただ走るためだけの道。 かなり退屈な道路だ。だけどそこがいい。 思い出したころに目につく、古びた小さな給油所。 無愛想な店員から、チップスと水を買い、また車に戻る。 アメリカのハイウェイを運転するたびに感じる。 「ああ。私は、自由だ」 自分が何者で、何を持っていて、何ができるかとか、そんなことはどうでもよくなる。 広い道を、誰にも邪魔されず、気ままに車を走らせている自分。 それだけでいいのだと思える。 日本の生活にもどると、ときどき目に浮かんでくる。 カリフォルニアの夕日をうけて、渋いオレンジ色に染まった、あの道が。 にほんブログ村 ↑ こちらも参加しています。 | カレンダー
最新コメント
プロフィール
HN:
mitzuki
性別:
女性
自己紹介:
みづき
・1969年生まれ。40歳。女。O型。 ・好きな映画 70年~90年代のアメリカ映画全般。 ・好きな作家 二ール・サイモン。スティーブン・キング。 ・嫌いなもの コウモリ。ジェットコースター。 カウンター
|